プッチーニ作曲 マノン・レスコー | 本番 | ドイツで鑑賞

Giacomo Puccini
Manon Lescaut

2022年12月10日(土)
​フランクフルト歌劇場
Oper Frankfurt

Conductor: Modestas Pitrenas
Director: Àlex Ollé
Revival rehearsed by: Katharina Kastening

Set Designer: Alfons Flores
Costume Designer: Lluc Castells
Lighting Designer: Joachim Klein
Chorus Master: Álvaro Corral Matute
Dramaturge: Stephanie Schulze

Manon Lescaut: Asmik Grigorian
Renato des Grieux: Joshua Guerrero

Lescaut: Domen Križaj
Geronte de Ravoir: Alfred Reiter
Edmondo: Jonathan Abernethy
Landlord / Captain: Magnús Baldvinsson
Musician: Kelsey Lauritano
Dance Master / Lamplighter
Andrew Bidlack
Der Sergeant: Pilgoo Kang

コロナ禍にOpera Visionで公開された「エフゲニー・オネーギン」を観て以来、ソプラノ歌手Asmik Grigorianのファン。エキゾチックな雰囲気は強い印象を与える。一方で初々しく弱い女の子も演じられる。私から見ると彼女は同世代のカッコイイ女性。憧れる。2022年11月に東京で上演された演奏会形式の「サロメ」で初めてAsmik Grigorianの歌声を生鑑賞。続いて、12月はフランクフルトで「マノン・レスコー」と「チャロデイカ」、2日連続で主役を歌うAsmikを堪能。世界のAsmikファンから羨ましがられるだろう。

​貧乏に耐えられない困ったちゃんな女マノン、金髪のウィッグでAsmikが登場。ちなみに翌日の「チャロデイカ」では黒髪なので、雰囲気はガラリと違う。

​舞台には巨大な立体文字。半分しか見えていないが、その文字が「LOVE」であることはすぐに気付く。演出としては現代物。旅行者を乗せたマイクロバスから降りてきたマノンはミニスーツケースを引いて、スマホを眺める。冒険を求めている、世の中に退屈している今時の普通の女の子といった感じ。

​第二部は、若くてハンサムだけど貧乏な恋人から逃げて金持ちの老人と暮らすマノンの場面なのだが、ここはストリップ劇場か?鉄の棒に手足を絡める下着(ビキニ?)姿の女の子たち。マノンも同じ格好でクネクネ体を動かす。華やかな生活だけど、やはりマノンは飽きている様子。

​圧倒的な存在感のAsmikに少しも引けを取らない相手役男性歌手にブラボー!! 少しも躊躇せず、迫力ある叫び声を披露してくれた。初めて名前を知ったが、鑑賞後に慌てて調べてみたところ、ヨーロッパとアメリカで活躍する若手テノール歌手だった。経歴によると、まだ日本では歌っていないのではと思う。こういう歌手を発掘できるのが音楽旅の楽しみの1つ。Joshua Guerreroという、いかにもアメリカ人っぽいファーストネームとラテン系のファミリーネームだ。メキシコ系アメリカ人だそうだ。

​「マノン・レスコー」のデ・グリュー役は、甲高い声で何度も愛するマノンの名を叫ぶ。これでもかというほど、激しく(しかも高音で!)叫ぶ。客としては、歌手には思いっきり叫んでいただきたい。ところが、「思いっきり叫んで欲しい」場面で、慎重に控えめに歌うテノール歌手もいる。ここ数年、生鑑賞で、そんなテノール歌手を何人も聴いた。仕方ないのだろう。無理して高音を出して喉の故障を招いたら困るし、出せると思ったのに狙った音が出ずに声が裏返ってしまうのも心配だろう。よほど自信があるという場合でない限り、無理しないのが常識なのかもしれないと少し思っていた。

​だが、Joshua Guerreroは違った。王道のテノール美声を出し惜しみすることなく聴かせてくれた。こうなると、客はもう満足というか満腹というか、何だかとても満たされた気持ちになる。カーテンコールでもAsmikと共に客席からの熱狂的な歓声を浴びていた。

​それでも、私はまだ思うのだ。マノンという人物は本当にそれほど魅力的なファム・ファタルなのだろうか?!デ・グリューよ、本当に彼女で良いのか?!(スズキさんはしつこい!)

2022年12月フランクフルト

Image 1 of 2

Oper Frankfurt - Manon Lescaut フランクフルト歌劇場 マノン・レスコー

この「マノン・レスコー」プロダクションは2019年10月にフランクフルト歌劇場で初演。すでに何度も上演されているようだ。

​レスコー兄役は昨日「マイスタージンガー」の代役で「夜警」を歌ったスロヴェニア出身の歌手であった。

​ところで、イタリアの二大オペラ作曲家、ヴェルディかプッチーニかといえば、申し訳ないのだが、私はヴェルディ派なのだ・・・それでも、プッチーニの音楽を聴くと、このキラキラ輝く音楽に、やはり魅了されてしまう。暗い音楽が好きな私は、プッチーニが男たちに歌わせる暗い歌も好きだ。「マノン・レスコー」なら、第2幕で再会したマノンにデ・グリューが絶望した気持ちをぶつける、あの恨み節だ。「トスカ」ならカヴァラドッシが拷問を受けて血だらけのまま、勝利を祝うあの歌とか。ああ、こうして語っていると、もしかすると私はプッチーニ派に傾きつつあるのかもしれない。

​さあ、プッチーニの音楽を聴いていただこう。

冒頭で半分しか見えていなかったLOVEの立体文字は、気が付いたら全部見えるようになっていた。

2022年12月フランクフルト

Image 2 of 2

Oper Frankfurt - Manon Lescaut フランクフルト歌劇場 マノン・レスコー