旅レポート:フランクフルト
なぜフランクフルトだったのか
旅人にとってフランクフルトと言えば何よりヨーロッパのハブ空港としての重要性である。乗り継ぎ地点としてこれまでにも何度もフランクフルトを訪問した。ただし空港だけ!
そんなフランクフルトを旅のメインの目的地として選んだのは時代の事情が絡んでいる。ロシアとウクライナの戦争が始まり、ヨーロッパまでの直行便は以前なら12時間ぐらいだったが、今は15時間。燃料費が高騰する中、比較的安い中東系航空会社のフライトを乗り継いでヨーロッパを訪れる人も多いと思うが、乗り継ぎの場合はトータルでさらに時間がかかる。コロナ禍の影響も残っているし、人手不足でもあり、便数は以前より少ないので仕方ない。でも、日本の短い休暇ではタイムロスが惜しい。というわけで、私はヨーロッパまで直行する飛行機に乗りたい。でも、15時間も飛行機に乗った後でヨーロッパ内で乗り継ぐのは嫌だ。
限られた直行便の中で、最初に狙いをつけたのがフランクフルト。音楽旅においては、まず何より、音楽が大事だ。なんと1週間で4作品もオペラを鑑賞できるではないか!素晴らしい!空港以外は行ったことはないが、何度も訪れたドイツなので安心感がある。久し振りの旅の目的地として相応しい。
旅先としてベストな選択だったと、帰国した今も思う。
市内交通 改札も打刻機もない
空港からフランクフルト市街地は遠いのだろうと勘違いしていた。実際は電車で15分ほどでアクセスできる。
ドイツの駅には改札がない。たまに車内で係員が抜き打ちで乗車券をチェックするというが、旅行中に市内交通でチェックを受けたことはない。都市間の鉄道では以前は毎回チェックを受けていたが、今回はコロナ時代の対応なのか、一度もチェックを受けなかった。改札がないので、改札が混みあうことも改札機が故障することもない。
購入したチケットは打刻機でスタンプを押して「有効化」するのだが、フランクフルトでは数年前に打刻機も廃止してしまったようだ。当日のチケットはチケットを買った時点から有効となる。
フランクフルトの鉄道駅には2種類の券売機がある。1つはドイツ鉄道の券売機で、地域を越えた都市間の移動で利用する。もう1つは地域内の移動で利用するRMVの券売機。
このRMVのマークが、私のオペラチケットにも印刷されていることにオペラ公演当日になって気付いた。なんと、公演チケットは市内交通費込みだったのだ!ドイツ語の小さな文字を読んでみると、行きは開演の5時間前から、帰りは終演後から終電まで、市内の交通機関を利用できるとのことだった。これは驚いた。
改札も打刻も不要だからこそ可能なサービスと言える。同じことを日本では絶対に実現できない。コンビニ発券のチケットでは自動改札を通れないし、有人改札しか利用できないとなると、終演後の最寄り駅改札は長蛇の列となってしまう。
効率化とはこういうことだ。
効率化についてもう1つ体験談を述べたい。
フォトブックにドイツの友達からホテルに届いたクリスマスプレゼントを掲載した。コロナ禍で日本に閉じ込められて絶望する私を慰めてくれた数少ない友人の1人である。私も同じようにプレゼントを日本から持参して箱に詰めてフランクフルトから友達が住む北ドイツに送付した。何故かというと、海外への小包配送は年々面倒になりつつあるのだ。以前は、手書きでさらっと「チョコレート、〇〇円」などと書くだけで送れたが、現在は内容物を1つずつオンラインで登録して伝票を出力しなければならない。ドイツ国内からドイツ国内に郵送するほうが、お互いラクなのだ。国内郵送なら、中身については特に記入する必要ない。
私は事前に自宅でドイツ郵便DHLのウェブサイトにアクセス。ドイツ国内から国内に送るための伝票を入力して印刷した。そのときに送料もカード払い。2キロまで、5キロまで、という区分だったので、念のため5キロにしておいた。フランクフルト到着の翌日。日本から持参した箱にプレゼントを詰めて伝票を貼って最寄りの「パックステーション」に持っていった。係員はサイズや重さを測ることもなく、受け取り、「支払い済みですね。では良い1日を!」とだけ言って完了。窓口対応は2秒。なんという速さ!
帰国後に実家と姪っ子にお土産を送ったのだが、窓口対応は1件2分はかかっていた。手書きが苦手な私は自宅で伝票を作成して印刷していたのだが、伝票を受け取った郵便局員はそれをハサミでちょきちょき切り分け、1つは箱に貼り、箱のサイズと重さを測り、料金を確認して、支払い、私に依頼者控えを手渡す。切り貼り、計測、料金確認、支払いという部分で時間がかかってしまったのだ。効率化はドイツの勝ち。
クリスマスマーケット
効率化の進むドイツで、効率的ではないのは、クリスマスマーケットで飲み物を飲むときのマグカップのデポジット制だろう。ただし、これは使い捨てを嫌い、環境保全を重視するドイツでは当然のこと。それに、思うのだが、温かいドリンクは紙コップより陶器のカップに入っているほうが美味しい。フランクフルトでは飲み物の支払い時にお店からトークン(あるいはレシート)を受け取る。マグカップを返却する時はこれが必要となる。デポジットは3ユーロ。コインで受け取る。飲むたびに返金されるので小銭が増えてしまう。
クリスマスマーケットと言えばホットワイン、ドイツ語で言うとグリューワインだろう。ただし、私はグリューワインより「プンシュ」が好きだ。プンシュとは何か。私も定義がよく分かっていない。ワインではなく、ラム酒など蒸留酒がベースとなっているものをプンシュと言うと思っていたのだが、フランクフルトでは様々なプンシュが販売されており、ワインがベースになっているものもあった。「プンシュ」は日本語(英語から来ている)でいうと「パンチ」や「ポンチ」など、つまりフルーツポンチの「ポンチ」と同じ言葉と思うのだが、お酒に果汁など何かを加えたドリンクという理解で良いのかもしれない。私にとって「プンシュ」は、グリューワインよりスッキリした喉越しで、よりスパイシーに感じる、より身体が温まるドリンクである。
アップルジュースを入れたプンシュがクリスマスマーケットでは定番なのだと思う。以前訪問したライプツィヒではプンシュは1種類だけだったと記憶しているのだが、ここフランクフルトでは様々なプンシュが売られていた。中でも私が気に入ったのが「クリスマスプンシュ」と「卵プンシュ」だ。
クリスマスプンシュにはレモンの輪切りと刻みナッツが浮かんでいた。
卵プンシュにはホイップクリームが乗っていた。クリームのお陰で冷めにくい。ストローで一気に吸い込むとポッカポカ。
帰国早々、”I miss Germany” な心境だった私は、この卵プンシュを自宅で再現してみることにした。本来は卵リキュールなるものを使うようだが、卵リキュール無しでトライしてみる。日本酒の玉子酒や西洋風玉子酒のレシピを参考に、卵黄を溶きながら牛乳を注ぎ、ラム酒を足して40秒レンジでチンしてかき混ぜて、再びレンジに入れるということを繰り返して、それらしきドリンクを作った。この冬はこれで乗り切ろう。いや、またドイツに行ける日まで、退屈な日本の日々をこれで耐えよう。