ワーグナー作曲 ニュルンベルクのマイスタージンガー | 本番 |ドイツで鑑賞

Richard Wagner
Die Meistersinger von Nürnberg

2022年12月11日(日)
​フランクフルト歌劇場
Oper Frankfurt

Conductor: Takeshi Moriuchi
Director: Johannes Erath
Set Designer: Kaspar Glarner
Costume Designer: Herbert Murauer
Lighting Designer: Joachim Klein
Video: Bibi Abel
Chorus Master: Tilman Michael
Dramaturge: Zsolt Horpácsy

Hans Sachs: Nicholas Brownlee
Veit Pogner: Georg Zeppenfeld
Sixtus Beckmesser: Michael Nagy
Eva: Magdalena Hinterdobler
Magdalene: Christina Bock
Walther von Stolzing: AJ Glueckert
Fritz Kothner: Thomas Faulkner
David: Michael Porter
Kunz Vogelgesang: Samuel Levine
Konrad Nachtigall: Barnaby Rea
Balthasar Zorn: Jonathan Abernethy
Ulrich Eisslinger: Hans-Jürgen Lazar
Augustin Moser: Andrew Bidlack
Hermann Ortel: Sebastian Geyer
Hans Schwarz: Anthony Robin Schneider
Hans Foltz: Božidar Smiljanić
Night Watchman: Domen Križaj

2022年12月フランクフルト

Image 1 of 1

Oper Frankfurt フランクフルト歌劇場

フランクフルト歌劇場、初訪問

いくつ目のヨーロッパ歌劇場訪問となるのだろうか。わたしは無事フランクフルト歌劇場デビューを果たした(もちろん客として「デビュー」なのだが)。写真の通り、外観は近代的な建物。これとは別に伝統ある歌劇場もあり、そちらは「旧歌劇場」の名でオーケストラコンサートやミュージカルが上演されている。

開演に先立ち、代役歌手3人の紹介があった。ユーモラスに伝えたのだろう。その辺、わたしはよく聞き取れなかったのだが、笑い声と拍手が沸き上がった。

スクリーンに祈る手のデッサンが映し出された。少しずつ出来上がっていくデッサン。教会での祈りの場面なので、違和感はない。

Albrecht Dürer – Praying Hands, 1508
Google Art Project.jpg

この時点でわたしはそれが何だか知らなかったのだが、この旅の最後にフランクフルトのシュテーデル美術館に行き、ミュージアムショップで気が付いた。このオペラの中にも名前が出てくるニュルンベルクの画家、アルブレヒト・デューラー Albrecht Dürer (1471-1528) の「祈る手」だった。

このデッサンはシュテーデル美術館ではなく、ウィーンの美術館にあるのだが、おそらくシュテーデル美術館で過去にデューラー特別展などを開催したのだろう。そのときに販売したアイテムを今もショップに置いているわけだ。デューラーは「ニュルンベルクのマイスタージンガー」に登場する実在したマイスタージンガーたちと同じ時代に同じ場所で生きた画家。

お笑い担当のベックメッサーはリュートを奏でたか?

予習編で書いた通り、ベックメッサー役のMichael Nagyが器用にリュートを掻き鳴らすのだろうかという点が気になり、よく様子を観察するために、初めてオペラグラスを用意してみることにした。日本のオペラ公演ではよくレンタルしているのだが、一度も借りたことはない。

選んだのはワインレッド色のコンパクトなニコンの双眼鏡。

「あら、それ素敵ね」なんて誰かが声をかけてくれるかなと思ったのだが、そういえば誰もオペラグラスを持っていないし、興味もなさそうだ。まあ、わたし自身がこれまでオペラグラスを持とうと思わなかったぐらいだから、オペラファンにとってオペラグラスは必需品でも何でもないのだ。実際、わたしも今回の旅で使ってみて、オペラグラスがすごく役に立ったかというと、そうでもないという結果だった。

しかし、どうもリュートは実演しないようだということを事前に知ってしまった。予習の続きとして観たフランクフルト歌劇場の動画によると、ベックメッサーが精一杯、美しく、ロマンチックに(空回りしながら?)鳴らす、あの音色は、実際はリュートではなく、「ベックメッサー・ハープ」という、そのための特別なハープの音色なのだそうだ。リュートよりしっかり強い音が出るので、大きな歌劇場でも歌や他の楽器の音量に負けずに響くらしい。

現地で聴いた感想。なるほど、これはよく聴こえてくる。確かにリュートの音ではない。その時、歌手が手に持ったリュートを奏でていたかどうか?少しぐらい奏でていたかもしれないがベックメッサー・ハープの音にかき消されてしまうだろう。

ベックメッサー・ハープについて調べていたら、びわ湖ホールで2023年3月に「ニュルンベルクのマイスタージンガー」が演奏されるので、オーケストラを担当する京都市交響楽団のハープ奏者が、この珍しい楽器「ベックメッサー・ハープ」を特注したという情報を知った。新聞社のオンラインサイトでも紹介されている。

ああ!そう!まさにこの音色!

なんと言えばいいのだろう!一生懸命なのだけど、どこか空回りな、ベックメッサーらしさ!音が外れ気味なのがイジらしい。ぜひお聴きください。0:50~ の音色に注目!

お洒落なチェック柄の上下衣装を着た不自由なマイスターたち

歌を作って歌うニュルンベルクが誇るマイスタージンガー12人は、どうやって座ったのか不思議なほど高い椅子に座って一生懸命に新聞を読む。決められたルーチン作業を正しくこなす。椅子があまりにも高いのでマイスターたちは自分では位置を変えられず、弟子たちが椅子を押してくれる。別の場面では、マイスターたちは車椅子に乗っていた。自由がない人たちなのだな。現代サラリーマンや日本社会に生きる人々をイメージしているのではと、勝手に解釈した。

芸術を愛する集団のはずなのに、ルールに縛られて窮屈な歌手たち。何しろ掟を書いた書物が天井まで積みあがっている。ダーフィトが見せてくれた。おっと危ない!そんなに積み上げるとグラグラ揺れているではないか。

それにしても、派手なチェック柄の衣装がカワイイ。日本のオペラではこんな大胆な衣装デザインはあまり見ないなと思う。比較的若い歌手たちに似合う。それに、ハンス・ザックスとベックメッサーがますますお笑いコンビに見えてきてしまう(笑)

若いハンス・ザックス

事前に見た上掲のフランクフルト歌劇場の動画で、今回ザックスを歌うのが33歳の歌手であることを知った。苦悩する渋い中年男ザックス・・・という定番のザックスではないようだ。ご本人も、もちろん憧れの役だが、10年早くこの役を歌う機会をいただいたというようなコメントをしている。

オペラとはそういうものだ。年寄りが若者を演じることがあるのだから、若者が年寄りを演じるのもありだ。こんなザックスでも良い。若いが味のある歌手だと感じた。夜にトントンと靴底を伸ばすトンカチの音でベックメッサーとの名コンビも楽しかった。ニカっと愉快そうに笑いながら乗りに乗って調子よくトントン叩いていた。(でも、どうしても若い分、「カワイイ」感じにも見えてしまうが・・・)

わたしがいつももらい泣きして泣いてしまう、あの場面では泣けなかった。ヴァルター、ザックス、エーファという順に3人は並んで縁に座っていて、ザックスは駄々をこねるように前に出て嘆いた。観ている者として、心揺さぶられる、という感じではない。

駄々をこねたザックスは一旦起き上がって、例の新しく生まれた歌の「洗礼式」をやったのだが、その後また気分を害してしまったようで、不貞腐れて(?)舞台上で寝込んでしまった!

​「起きろ!!」

Wacht auf!

大勢の市民がフォルティッシモで、しかもユニゾンで、大合唱!!

ザックスは驚いて飛び上がる!

​ぷぷぷ(笑)はい、笑うところ! 市民みんなが尊敬する大好きなマイスタージンガー、ザックスを称えるところで、やっと起きるのだから、笑える。本来は大感動の場面なのだが、面白かったので客席からもクスっと笑いが漏れる。

指揮者 森内剛

ハンス・ザックスを歌ったNicholas Brownleeを含む、いくつもの重要な役をフランクフルト歌劇場所属の歌手が務めたということを知ったのは、帰国後、Google検索で表示された指揮者森内剛さんのツイッター投稿を見つけたときだった。

指揮者が日本人であることは把握していたのだが、事前に十分調べず、反省した。この日、終演後のカーテンコールで指揮者を呼びに行ったのは、通常ならヒロイン(この作品ならエーファ)なのだが、本公演では共にフランクフルト歌劇場で頑張ってきた仲間であるNicholas Brownlee とヴァルター役の AJ Glueckertだったそうだ。そう言われるとそうだったような気もするが、さすがに旅行中に5本もオペラを鑑賞したので、はっきりとは覚えていない。

マエストロ森内は、フランクフルト歌劇場でコレペティトゥアとして歌手のコーチもしているとのこと。この数日後に鑑賞した「タメルラーノ」ではチェンバロを担当。また、わたしが行く予定だった旧歌劇場でのオーケストラ公演は指揮者の体調不良でキャンセルとなったが、翌日に演奏された同一プログラムでは森内氏が代役をこなした。その他にも急逝した指揮者の代役など、多忙を極める音楽家のようだ。再びツイッターをチェックしたら、今度はフランクフルト歌劇場の別の公演「マノン・レスコー」で開演直前に連絡を受けて代役。ハード過ぎる。

それだけ優秀で頼れる重宝される才能をお持ちなわけだ。その存在と大活躍を知っていたら、日本から食料か何か持っていって「匿名のファンより」としてお届けしたのに。(え?迷惑かしら・・・?)

「マイスタージンガーもタメルラーノも鑑賞しました!」と伝えられたら、喜んでいただけたかもしれないのに、SNSを離脱したわたしには森内さんに連絡する手段がない。残念だ。とりあえず、今回のフランクフルト訪問で確実に名前を覚えた。またフランクフルトに行くかもしれないので、鑑賞することになると思う。

マエストロ!今後もますますのご活躍を期待してます!十分休息する時間も確保できますように!

気になるエンディングは?たぶんハッピーエンド?

さて、歌合戦に優勝したヴァルターはマイスターのメダルを受け取るか否か。

ベックメッサーが黙って少しずつ幕を引いていく。幕の向こうで、ヴァルターがその場を去ってしまう様子が見える。泣き崩れるエーファが見える。このプロダクションでは、残念な悲しいエンディングなのだろうか。わたしは決して古い伝統を重視するという人間ではないが、ザックスのファンとしては、あまりザックスを悲しませたくない。ところが、再び幕が開いたときは、ヴァルターもエーファも仲良く一緒に並んでいたように見える。みんな笑顔。結局、ハッピーエンドという理解で良いのかな?

​ところで、最後のザックスのスピーチの直前に、マイスターたちは急いで紙を回してザックスに手渡した。これは、発言すべきことはすべてマイスターたちが事前に決めたことでなければならないというマイスターの掟なのだろうか?

それとも、覚えなければならない歌詞が長すぎる上に、最後にこの長文のスピーチをこなさなければいけない、大役ザックスのために、カンニングペーパーを差し入れしたということなのだろうか?(暗記失敗?)

​一旦幕は閉まるのだが、幕の前にザックスとベックメッサーがいる。こうして2人並ぶと、本当にコメディアンコンビのように見えてしまう!ベックメッサーがザックスの顔を見て、何か言いたげだ。握手?仲直りか?「ほらね。暗記するって結構むずかしいでしょ。」と言っているような気がするのは私だけかしら?

やはりこの作品のお笑い主担当はベックメッサーで、副担当はザックスであり、2人はお笑いコンビなのだ。それがスズキ的結論。 揃ってチェック柄の衣装が、この結論を説得力のあるものにさせている。

2022年12月フランクフルト

Image 1 of 1

Oper Frankfurt - Die Meistersinger von Nürnberg フランクフルト歌劇場 ニュルンベルクのマイスタージンガー

今回の旅で入手したプログラムはすべて現地語版。英語版は無かった。ドイツ語とフランス語を頑張らなければ。芸術世界は言語の壁だらけ。ぐすん。

2022年12月フランクフルト

Image 1 of 1

Oper Frankfurt フランクフルト歌劇場

Oper Frankfurt は全面的にウクライナを応援している。ロゴマーク、開演前の字幕エリアなどで国旗カラーのブルーとイエローを使用。

​舞台に乗っているのは表彰台。1位の台には女性用の白い靴。

休憩時間はバルコニーに出よう!

言っておくが、オペラは演奏者だけでなく、鑑賞者も真剣だ。当日に備えて体調を万全に整えておかなければならぬ。とはいえ、この日はドイツ到着2日目。寒い中、見知らぬ街を歩いたのだから、それなりに疲れている。しかも演奏時間4時間半で休憩を含むと5時間以上の大作オペラ。少しも退屈していないのに、どうしても睡魔に襲われる。そういうときは、最上階のバルコニーに出る。夜のフランクフルト、気温はもちろんマイナス。ひんやりした空気が気持ちイイ。ワインとブレッツェルを持って外に出るのが良い。

​歌劇場のカウンターで注文できるワインは赤も白も1種類のみという場合が多いのだが、フランクフルト歌劇場では複数用意されている。わたしのチョイスはもちろんリースリング。

2022年12月フランクフルト

Image 1 of 1

Oper Frankfurt フランクフルト歌劇場