ヘンデル作曲 タメルラーノ | 本番 | ドイツで鑑賞

Georg Friedrich Händel
Tamerlano

2022年12月14日(水)
​フランクフルト歌劇場(ボッケンハイム・デポ)
Oper Frankfurt (Bockenheimer Depot)

Conductor: Karsten Januschke
Director: R.B. Schlather
Revival rehearsed by: Nina Brazier
Set Designer: Paul Steinberg
Costume Designer: Doey Lüthi
Lighting Designer: Marcel Heyde
Dramaturge: Mareike Wink

Tamerlano: Lawrence Zazzo
Bajazet: Yves Saelens
Asteria: Elizabeth Reiter
Andronico: Dmitry Egorov
Irene: Cecelia Hall
Leone: Jarrett Porter

フランクフルト歌劇場のサイトでチケットを購入したのだが、どうやら上演場所は歌劇場ではないらしいことに後から気がついた。

ボッケンハイム・デポは1900年の建築物。以前は路面電車の車庫として利用されていた。現在はフランクフルト歌劇場の第2会場としてバロックオペラや現代オペラの小規模な作品が上演されている。

音楽旅をする旅人としては、公演が行われる建物、つまり「箱」に興味がある。できるだけ沢山の「箱」を体験したい。特にユニークな「箱」で鑑賞してみたい。そんな願望を満たすにはぴったりな会場の1つと言えよう。

​旅の終盤の夜の公演に備えて数日前に場所を下見しておいた。

2022年12月フランクフルト

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Bockenheimer Depot ボッケンハイム・デポ(フランクフルト歌劇場の会場の一つ)

地下鉄ボッケンハイム駅のすぐ目の前にあるので迷うことはない。また、ボッケンハイム駅はフランクフルト中央駅からほんの数駅。終着駅なので乗り間違える心配もない。安心だ。

2022年12月フランクフルト

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Frankfurt - Bockenheimer Depot ボッケンハイム・デポ

公演日、会場に着いたのだが、レクチャーか何かをやっているようで、座席には入れない。ロビーには、飲み物・軽食販売のカウンターやプログラムの販売窓口、トイレがある。10分前にようやく座席に移動。座席は可動式のスタジアムのスタンドのようなもの。

ん?これは驚いた。何だ?この檻は?

2022年12月フランクフルト

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Frankfurt

檻の中には楽器が見える!

こともあろうか、音楽家を檻に閉じ込めるつもりか?!

それは斬新だ!

​ほどなく、胡散臭い男が登場。黒帽子と黒チョッキ。髭も髪も付け物。胡散臭い男は気取りながら音楽家たちを誘導してきた。そして音楽家たちを檻に入れてガチャンと扉に鍵をかけてしまった。あーあ。指揮者まで柵の中に入れてしまったではないか。ちなみにチェンバロ担当は数日前に「ニュルンベルクのマイスタージンガー」で指揮台に立った森内剛氏。

​演奏が始まる。あー、やはりあの胡散臭い男はタメルラーノご本人だった!

​このタメルラーノは何故かバドワイザーのビールがお気に入りのようで、ごくごく飲んでいたのだが、飲んでいるふりをしながら、こぼしまくっていた。前方の席の人にバドワーザー缶を配っていた。

​ところで、プログラムにはドイツ語と英語の字幕付きと書いてあるのだが、どうみてもドイツ語しかなかった。

​歌手は時に客席に入り込んで歌う。客席に来るときだけマスクをしていた。ノーマル化が進むヨーロッパとは言ってもコロナ禍を意識してか、お客さんとの接触は少な目という感じ。客席数は400席。建物は天井も高く広いが、照明など設備に囲まれた空間は、建物サイズより少し小さい。それでもそこそこ天井は高く、音の響きを感じることができる。外は氷点下だが、この空間はコートなしでも座っていられる。(コートを着たままの客もいた。)小規模なバロックオペラや現代オペラをこのような空間で楽しむのも面白い。

​演出はミニマル。バヤジェット、アステリア、アンドロニコは囚われの身らしくゼッケン番号を付けて登場。途中、黄緑のガムテープでグルグルしばられたりしていた。バヤジェットのオレンジ服は、外国の某過激集団の囚人が着せられる服を連想させる。その後、アステリアはタメルラーノから白いウェディングドレスを渡されて着るのだが、彼女が愛するのはタメルラーノではないので不幸な表情のまま。愛するアステリアに裏切られたタメルラーノは突然自分の髭やカツラを外して怒る。(ええ?外していいの?)

​アンドロニコ、アステリア、イレーネを歌った歌手たちが特に抜群に上手かった。アンドロニコに関しては開演前に何かアナウンスがあったのだが、私は聞き取れなかった。聞き取れた単語から予想すると、風邪か何かで本調子ではないという感じのアナウンスだったように思ったのだが、実際の歌声を聴いたところ、そうは感じなかった。また、予習で使った音源では脇役のレオーネのアリアがほとんど省略されていたのだが、このプロダクションでは、おそらく全て歌っていたのではと思う。レオーネというのは、アンドロニコに仕える男(タメルラーノにも支えている?)。予習編の人物図では省略した。

​朝、雪が降る中、ストラスブールから電車でフランクフルトに戻ってきた私はこの日もまた疲労していた。うとうとしていたときに自分の席の近くにオレンジ服のバヤジェット歌手が来ていて目を覚ました。

肝心のバヤジェットの自死の場面でまたうとうとしてしまったのは申し訳ない。確実に覚えているのは、バヤジェットの死の直後に歌われるタメルラーノとアンドロニコの友情復活ルンルン二重唱はカットされていたこと。

うん、もちろんそうあるべきだと私は思う。カウンターテノール2人の二重唱は聴き応えあるのだが、人が一人死んでいるのにルンルン歌うのはどうかと思う。

バヤジェットの死の直後、タメルラーノは心を入れ替えてアンドロニコとアステリアの結婚を認めると発言し、そのまま一同は悲しいアンサンブルを歌って終わりとなった。